2026年11月のカクテルと新入荷スピリッツ

十一月は、紅茶の淹れ方に少しうるさい作家の話から。ジョージ・オーウェルの随筆をもとにした温かなカクテルと、その一杯にカカオの香りを添える新入荷のスピリッツをご紹介します。

今月のカクテル:一杯のおいしい紅茶(ジョージ・オーウェル)

2,000円/アルコール度数:約8〜9%/量感:約150ml

絵柄のあるカップに注いだ温かなミルクティーカクテル「一杯のおいしい紅茶」
十一月のカクテル「一杯のおいしい紅茶」

紅茶が先か、牛乳が先か

紅茶を注いでから牛乳を加えるか、牛乳を先に入れるか。英国では昔から意見の分かれる話ですが、オーウェルは一九四六年の随筆『一杯のおいしい紅茶』で、紅茶が先だと主張しています。その方が、牛乳の量を自分の好みに合わせられるからだという。茶葉は惜しまず濃く淹れ、砂糖は入れない。紅茶一杯のために十一もの決まりを並べるのですから、なかなかの拘りです。

今月はその紅茶論を拝借しました。濃いめに抽出したアッサムに、「マウシム SINGLE NOTE Cacao」の焙煎したカカオの香りを重ね、温めた牛乳を最後に加えます。砂糖も蜂蜜も使わず、紅茶のコクと渋味、カカオニブを思わせる香ばしさ、牛乳本来のほのかな甘みで仕立てたホット・ミルクティーカクテルです。

もっとも、紅茶に蒸留酒を注ぐことは、彼の十一箇条にはありません。十一月の夜くらいは、そんな少々の脱線も許していただきたいところです。

オーウェルと、理想の酒場

『動物農場』や『一九八四年』で知られるオーウェルは、一九四六年の別の随筆『水中の月』で、理想のパブについても語っています。暖炉が燃え、店員は客の顔を覚え、常連たちは静かに語り合う。ところが最後には、その店は実在しないと明かされる。権力や欺瞞を厳しく見つめた作家が、酒場の居心地や紅茶の淹れ方には熱心に注文をつける。その横顔には、どこか親しみを覚えます。

今月の新入荷スピリッツ:マウシム SINGLE NOTE Cacao

1,200円/アルコール度数:43%

AseeKのカウンターに置かれたマウシム SINGLE NOTE Cacaoの金色のボトル
マウシム SINGLE NOTE Cacao

カカオの酒と聞くと、甘いチョコレートリキュールを想像するかもしれません。この一本は砂糖をまったく加えず、香味素材をカカオ一種類に絞った蒸留酒です。鼻では確かにチョコレートを感じるのに、口にすると甘くない。その少し不思議な取り合わせが面白い。

原料は、カンボジア・モンドルキリ州の有機栽培カカオ。チョコレート職人が焙煎した豆のニブとハスク、中身と外皮を使って蒸留し、香味成分を守るため無濾過で瓶詰めしています。金色のアルミボトルも、冷えやすさを活かし、氷を入れずに供するための選択なのだそうです。

「SINGLE NOTE」は、ジンの開発で約三百種類の香味素材を試すなかから生まれました。組み合わせるより、単独の方がよく香る素材もある。その香りを一つずつ取り出す試みの第一弾が、このカカオです。

ブランドの母体は、岐阜で長年古紙回収を営んできた会社。カンボジアのトンレサップ湖に繁殖するホテイアオイを燃料に変える事業から、蒸留酒造りへと進んだといいます。酒蔵ではなく、水草との縁から始まった酒。「MAWSIM」はアラビア語で「季節」を意味し、季節風「モンスーン」の語源にもなる言葉です。